夜。まだコックのサンジは片付けや仕込みなどでキッチンに居た。
いつもなら、もう少し早く終えることもできたが、今晩は見張りの交代がある。そのため、普段よりゆっくりと作業に当たっていたのだ。



「(そろそろ行くか・・・・・・。)」



予定通り、やっておこうと思っていたことを全て終わらせたサンジは、扉の方へと向かった。
しかし、その扉はサンジがたどり着く前にひとりでに開いた。・・・否、扉がひとりでに開くわけはない。当然、サンジとは逆の、室外から扉を開けた人物が居たのだ。
ゆっくりと扉を開き、何も言わずキッチンへ入り、また静かに後ろの扉を閉めたのは・・・・・・。



ちゃん?!」



最近、ここのクルーとなっただった。ちなみに、サンジの前の見張りの担当をしていたのも、このだった。



「ゴメン、俺遅かったかな・・・・・・?」



さらに言うなれば、サンジが密かに想いを寄せている相手でもある。
サンジはいわゆる女好きフェミニストで、全ての女性に優しく、また好意も示していた。しかし、他の女性――ナミやロビン相手でさえも抱いたことのない感情を、このには感じてしまう自分に気付いたサンジは、「これが特定の誰かを愛することなのか」と自覚した。
そんなとこの空間に二人きり。サンジが動揺しないわけはなかった。
しかも、はそのまま無言で駆け寄り・・・・・・サンジにギュッと抱きついた。



「!!」



思わずデレッとしそうになるサンジだったが、今までがこんな行動をしたことはなかった。ゆえに、喜ぶよりも先に、彼女を心配に思う気持ちが前に出て、サンジは真剣な声色で尋ねた。



「どうしたんだ、ちゃん?」

「・・・・・・・・・・・・。」



しかし、それにもは何かを返そうとはしなかった。



「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・ちゃん?」



もう一度、サンジが名前を呼ぶと、やっとは顔を上げた。しかし、は一度サンジと目を合わせただけで、また顔を伏せた。



「・・・・・・ごめんなさい、何でもない。」



さらにはそう言いながら、すぐさまサンジから離れた。
今度も惜しく思いかけたサンジだったが、やはりそれ以上にが心配だった。



「何でもないわけないだろ?何かあったのか??」



結局、は何も言おうとしなかった。
どうすればいいものか、と半ば諦めがちではあったが、それでも何とかしてあげたいという思いに駆られたサンジは、戸惑いながらも言葉を続けた。



「とにかく・・・。見張りをしないわけにはいかないから・・・ちゃんがよければ、一緒に来てくれないかな?」

「・・・・・・。」

「話したくないなら、話さなくてもいい。ただ、一緒に居てほしいだけなんだ。・・・どうかな?」

「うん・・・。サンジがいいなら。」

「よかった!じゃあ、今温かい飲み物でも入れるから。一緒に行こう。」

「うん。ありがとう。」



一応、は言葉を返すようにはなった。そのことに、一先ずはサンジも安心する。しかし、二人で見張り台に着いてからも、本当には何も話そうとはしてくれなかった。



「そもそも、こんな時間にちゃん一人で見張りさせてたんだよな・・・。あぁ!俺は何考えてんだ・・・!!ゴメンな、ちゃん?」

「ううん!そんなのサンジの所為じゃない。私の役目だったんだもの。それに、まだ早い時間だし・・・。」

「そうだとしても。俺が代わるか、せめて一緒に見張ればよかった・・・・・・。」

「・・・・・・サンジは優しいね。」

「いや、本当はこうやって一緒に居たいだけなんだけどな。」



サンジがニッコリ笑って見せるも、の笑顔はいつものような明るいものではなかった。



ちゃん?」

「・・・・・・そういう優しさが、サンジの良いところだよね。」



そう言ったは少し元気を取り戻したように微笑んだ。それを見て、サンジも気休めにはなった。



「ありがとう。」

「ううん。私は何も・・・。こっちこそ、ありがとう。それに、さっきは突然ゴメンね?」

ちゃんが俺の胸に飛び込んできたいのなら、いつだって大歓迎さ!」

「ふふ・・・。本当、サンジはみんなに優しいよね。」



ようやく笑ってくれたにサンジも胸を撫で下ろす。しかし、その言い方はどこか引っ掛かる部分もあった。



「俺は、特にちゃんに優しくしてるつもりだけど?」

「何言ってるの。ナミやロビンにだって優しいじゃない。私はそこもサンジの良いところだと思うよ。・・・・・・ただ・・・ね。」

「ん?」



やっと話す気になったのか、は言い難そうにしながらも、ポツリポツリと話し出した。



「私は・・・・・・ナミやロビンみたいに、色気もないし・・・。」

「そんなことないって!」

「でも、さっき、私が抱きついたとき、サンジだって何の反応もしなかったじゃない。アレがナミやロビンだったら、メロメロになってたんじゃないの?」

「それは、ちゃんの態度がいつもと違うから、心配で・・・。」

「うん・・・本当はわかってた。・・・だから、ごめんなさい。急にあんなことして。」



の説明は、論理立てて順序よく話しているとは言えないものであった。ただ、それでも、サンジにもわかることがあった。それは・・・・・・。



「つまり、ちゃんは俺を試した、ってこと?」

「試したわけじゃないけど・・・。」

「でも、俺の気持ちを確かめたかった。そういうことなんじゃないの?」

「・・・そうなのかな・・・・・・。」



どうやら自身、深く考えてあのような行動に出たわけではなかったようだ。ほぼ衝動的とも言えるほどの勢いだったのだろう。だからこそ、自分でもどうしてそうしたのか、上手く説明ができなかったらしい。
そんなを見て、サンジは笑みがこぼれる。そして、両腕を広げて言った。



「じゃあ、もし俺が、この腕はちゃんだけを包み込むためにあると言ったら?」

「・・・・・・・・・・・・疑う。」

「いや、そういうことじゃなくて・・・・・・。」



今この時ばかりは、サンジも今までの自分の態度を反省し、苦笑した。
しかし、自分の行動が間違っているとは思わないし、今更後悔したところで、もう遅い。それに先ほど、そういう部分も自分の良いところだと、も褒めてくれた。だから、今はただ信じてもらえるように努力しようと、サンジは気持ちを切り替えた。



「ウソでも冗談でもない。本気なんだ。」

「・・・・・・本当に?」

「あぁ、本当だよ。」

「・・・・・・じゃあ・・・・・・。私も・・・・・・サンジにだけ、こうする。」



そう言って、はサンジの腕の中に飛び込んだ。
今度こそ、サンジは躊躇わず、優しく腕を回すことができた。そして、の髪をそっと撫でる。



「・・・・・・ありがとう。」

「こっちこそ、ありがとう。・・・・・・俺はずっとちゃんのことが大好きだったんだ。」

「・・・・・・本当に?」

「だから、本当だって!」



サンジが少し焦りながら困ったように笑えば、もさすがに信じたらしく、もう少し強い力でギュッとサンジに抱きついた。



「私も。」

ちゃんも・・・・・・?」



もちろん、サンジにはその続きがわかっている。それでも、自身の口から聞きたくて、サンジはその先を促した。



「私も・・・・・・大好きだよ。」



それを聞いて、サンジも回した腕に力を入れた。



「ねぇ、ちゃん。今晩は、いつまでここに居てくれる?」

「・・・・・・サンジがいいなら、ずっと。」

「じゃあ・・・・・・。」



サンジはそう言うと、腕の力を緩めた。不思議そうに、また少し寂しそうにも見える表情でが離れると、サンジはにこやかに自分の足のつけ根辺りを叩いた。



「ここで寝る?」

「・・・・・・うん!」



の顔がパッと明るくなり、嬉しそうにサンジの足に頭を乗せた。サンジはそんなの髪を撫でながら、への愛を実感していた。



「(・・・・・・これじゃあ、見張りどころじゃないかもな。)」



なんてことを一瞬でも思ってしまったことは、もちろん仲間の誰にも秘密である。













 

ようやく、初サンジ夢!『ONE PIECE』で1番好きなキャラですからね☆(笑)
今回、テーマは「サンジさんに甘えたい!」でした。存分に甘えていただけましたでしょうか?(笑)
この調子で、サンジ夢や『ONE PIECE』夢に少しずつチャレンジしたいと思います♪

・・・・・・と言いながら、実はコレ、2つ目のサンジ夢なんですよねー。1つ目は未完成でして・・・・・・。かれこれ、数年かかってます(汗)。
いずれは、そっちもアップできるよう、頑張ります!(笑)

('09/12/22)